
末期がんなどの痛みを取り除く緩和ケアがオーストラリアでどのように行われているかを、藤田保健衛生大(愛知県)と順天堂大(東京都)の緩和ケアチームが視察した。在宅ケアを中心にした病院とホスピス(緩和ケア病棟)との密接な連携、緩和ケアに関する充実した教育体制などに、参加者は感心していた。
(論説委員・日比野守男)
短い入院 在宅重視
オーストラリアは英国と並ぶ緩和ケアの先進国として知られている。
視察団は、医師、看護師、薬剤師で構成。最初にメルボルンから南東43キロ、フランクストン市にある「ペニンシュラホスピス」を訪れた。2001年にビクトリア州政府の資金で建設され、病室は15床。いずれも個室でシャワーとトイレ付き。どの病室からも直接庭へ出られる。家族の宿泊室もある。
外観や内部の設備などは日本のホスピスとほとんど変わらない。違うのはホスピスの位置付けだ。ホスピス長のブライアン・マクドナルド医師は「ケアの三角形」を強調する。
患者は一般病院でがん治療を受けたあと、その病院、ホスピス、自宅のいずれにおいても必要な緩和ケアが受けられる仕組みだ。日本のように病院や在宅ケアと独立した形でホスピスがあるのではない。容体が安定していれば、可能な限り自宅で過ごすシステムが地域ごとに確立されている。
在宅ケアを受けるための手続きは、非営利組織の「ペニンシュラ・ホスピス・サービス」(PHS)が行い、患者の容体、家族の状況によって必要なサービス量を評価。提携している開業医や地域の訪問看護師協会などへの橋渡しをする。
訪問看護師による看護サービスへの支払いは、一般患者が1回5オーストラリアドル(1ドル=約100円)、年金受給者が3ドル。月最高30ドルと上限が設けてある。在宅患者の25-30%はそのまま自宅で最期を迎える。
それ以外の患者の多くはホスピスへ。平均入院日数は、日本の1-2ヵ月と比べ12日と短い。在宅中心の「ケアの三角形」がうまく機能しているためだろう。
02年から03年にかけての1年間に406人が入院し、316人がここで亡くなった。
看護教育も充実
「三角形」は1990年代からオーストラリア全土に普及している。
ホスピスのすぐ近くにあるモナシュ大学看護学部では、講師のスーザン・リーさん、日本の淀川キリスト教病院ホスピス(大阪市)での勤務経験のある下稲葉かおりさんの2人が看護師への緩和ケア教育について説明してくれた。
それによると、オーストラリアでの看護師の資格取得は3年制の大学看護学部を卒業することが条件。卒業後1年間は病院勤務をしながら研修を受ける。
2年目以降、希望者は大学での卒後教育、修士、博士課程で緩和ケアをはじめとする専門分野を学ぶ。ペニンシュラ地域では緩和ケアを志す看護師に「ケアの三角形」に参加してもらい、臨床経験を積んでもらう。専門分野を学ぶ看護師が勤務を継続できるように、パートタイムや通信教育での勉学が保障されているのも特徴だ。
視察を終えた藤田保健衛生大の丸山文夫准教授は「私たちも地域と連携して在宅ホスピスケアを始めようとしたが、医師会に“押しつけるのはやめてくれ”と言われ、話もさせてもらえなかった」と振り返り、在宅重視のオーストラリアとの違いに驚いていた。
順天堂大の山口聖子・ホスピスケア認定看護師は「日本で認定看護師といっても特定分野の仕事だけができる環境にはない」と言い、オーストラリアで看護師の専門性がはっきりしていることに興味を示していた。
記者のつぶやき
緩和ケアにはモルヒネなど医療用麻薬の投与が不可欠で、正しく使えば中毒にならないというのは世界の常識。しかも先進国のがん治療は病変の治療と緩和ケアを同時に行い、がんの進行に伴い緩和ケアの割合を高める方向に変わりつつある。
オーストラリアでは麻薬の使い方は話題にすらならなかった。使いこなせて当然ということなのだろう。いまだに麻薬の使用をためらう医師が多い日本の遅れを感じさせられた。
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東京新聞2007年10月2日 掲載
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