がんの“イタミ”と闘うプロフェッショナルたち


オレンジサークルの現場から がんの“つらさ”をチームで手当てする 希望を生み出す緩和ケアをめざして

File No.001 弘前大学医学部附属病院 緩和ケアチーム(週刊新潮2009年3月19日号に掲載)
2007年厚生労働省の都道府県別がん死亡率の調査によると、最も高いのは4年連続で青森県。その青森県において、同年1月、がん診療の中心的な役割を担う病院(地域がん診療連携拠点病院)に弘前大学医学部附属病院が指定される。ここで患者の体の痛みや精神的なケアに取り組むチームを取材した。

7割以上ものがん患者が、「がん性疼痛(とうつう)」と呼ばれる痛みを経験する。
1996年、弘前大学医学部附属病院では麻酔・ペインクリニック科の佐藤哲観(てつみ)医師ら他2名の麻酔科医が中心となり、がんの痛み治療を始める。その日々の診療で痛感させられたのが、「体の痛みを取り除いても、心に潜むさまざまな苦痛を治療しなければ、本当の“つらさ”は無くならない」ということだった。

がん治療は「がん細胞と闘う」+ α

麻酔科・緩和ケア診断室 医師 佐藤 哲観氏

がんの治療は大きく2つに分かれる。1つは病気に焦点をあてて、手術や薬などでがん細胞と闘う治療。もう1つは患者をひとりの人間として診る治療。これは体の激しい痛み、不安や家族の悩みなど心の痛みと向き合っていく治療である。
がん研究の進歩はめざましく、次々と新しい治療法が生み出されている。だからこそ、2方向から治療することが重要になる。
佐藤医師は、患者や家族のがんと闘っていこうという決意を妨げ、揺るがす存在が“つらさ”ではないかと考える。これを取り除くことで、一度しかない人生を自分らしい生き方へと変えていけるのではないか。
その“つらさ”を知るには―。とにかく患者や家族の話に耳を傾ける。病室を訪れる。そして徐々に、患者や家族が話す言葉のニュアンス、表情やさり気ない仕草から、それぞれの“つらさ”がわかってきた。

一人ひとりの患者を深く診ること

神経科精神科 医師 菊池 淳宏氏

2007年4月、緩和ケアチームを正式に結成。神経科精神科医師、臨床心理士、看護師、薬剤師、管理栄養士、歯科口腔外科医師など、多くのスタッフが加わった。麻酔科 医だけでは不十分だった精神面や栄養面など、細かいケアができるようになった。しかし佐藤医師はいう。
「押し付けがましい存在ではダメなんです」
無口で、コミュニケーションが取りにくい高齢の患者がいた。良かれと思い、さまざまなケアを提供してみた。すると突然、患者が怒り出したのだ。じっくり話を聴いてみると、実は多くのケアにストレスを感じていたという。「患者さんがどのような"つらさ"を感じているのか。私たちに何を望んでいるのか。一人ひとりと向き合う中で、深く診ていく。そんなふうに寄り添い支えあうチームでありたいと思います」

管理栄養士 三上 恵理氏

これはスタッフの考えにも共通する。神経科精神科の菊池淳宏(あつひろ)医師は心のケアをしながら、患者に希望を与えたいと語る。例えば「釣りに行きたい」と望む患者がいるとする。実際に行くことは無理かもしれない。しかし釣りの雑誌を見たりお気に入りの釣竿を眺めたりして、希望に向かって一緒に歩いていきたいと話す。また管理栄養士の三上恵理氏は、食べることは生きる勇気を生むと考える。「これなら食べられそう」と思える献立作りに、配膳のギリギリ1時間前まで格闘している。

早く確実なケアのために毎日ベッドを訪れる

全国では、がんの手術などを行う主治医が治療方針を決め、緩和ケアチームは黒子役に回ることが多い。しかしここでは毎日ベッドを訪れて、主治医や病棟のスタッフとともにケアをする。
とくに体の痛みは、専門的な治療を用いて早く確実に取り除く。
「私たちのやり方が理想的なチームの形ではないかもしれない。 しかし痛みは急激に変化するもの。だから痛みを訴えた患者さんの“つらさ”は、何としてでも早く確実に取り除きたいんです」

チームでは週一回の会議で症例を検討する

緩和ケアを終末期医療と誤解する患者や家族は依然として多い。しかし診断時から治療と並行することで、がん細胞と闘う力をより引き出せるはず。JPAP®のオレンジサークル活動を通して、一般の方々へ理解をもっともっと広めていきたいと語った。JPAP®のオレンジサークル活動を通して、一般の方々へ理解をもっともっと広めていきたいと語った。
24時間365日、“つらさ”と向き合い走り続けて13年余り。患者や家族に対する佐藤医師らの思いが、チームの根幹として脈々と受け継がれているように感じられた。